2020年7月7日火曜日

最も海洋に適応した昆虫

各地で豪雨災害が猛威を振るっておりますね。被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。一日でも早い復興を祈っております。まだここから数日は油断できないようですし命を守る最善の行動を心掛けてくださいね。当ブログ中の人は関東ですが油断は禁物だと思っています。

さて、本題に入りましょう。
地球上で繁栄しまくっている昆虫。その昆虫たちでも苦手とする環境として、海洋があります。しかーーし!!しかしですよ。なんと海洋にも適応した昆虫がいるのです。

その名もウミアメンボ。
皆さんご存知のあの田圃から公園の池、果ては水たまりまで、どこでも目にする最も身近な水生昆虫であるあのアメンボの仲間です。そのなかに海洋に進出したグループがあるのです。

そのウミアメンボ属は日本から五種記録されています。
  1. ウミアメンボ
  2. シロウミアメンボ
  3. ツヤウミアメンボ
  4. コガタウミアメンボ
  5. センタウミアメンボ
↑がその五種です。
全ての種が塩分のある水域で生活しますが、この属には沿岸性種と外洋性種にわけることができます。
沿岸性種は名の通り、波がほとんどないような海岸や漁港などで生活する種のことで、本属ではウミアメンボとシロウミアメンボの二種が該当します。(このウミアメンボ属以外にもシオアメンボやケシウミアメンボなど塩分がある水域に生息する水生昆虫はちらほらいたりします。)こちらは前述の通り場所によっては普通に岸から採集することが可能です。
問題は外洋性の種なのです。ツヤウミアメンボ、コガタウミアメンボ、センタウミアメンボの三種が該当し、これらの種は普段はこちらも字面の通り、外洋(遠洋)で生活しています。大海原の上で生活しているのです。(おそらく漂流物の近辺で生活している?)体表面の構造も波にもまれて海没しても耐えられたり、紫外線にも強いものになっています。また脚部の遊泳毛も凄く発達しています。
多分読者の皆様はあまりイメージできていないと思われますが大丈夫です。僕もよくわかりません。
そのため、普段は人の目に触れることがなく、正攻法で採集を試みる場合は漁師さん方の船に乗っけてもらって上からネットでどうにかするか、自分で船舶免許取って船出して採るという難易度が高いとかそういうレベルではない話になってきてしまいます。前者に至ってはもう交渉術のレベルがモノをいう。
しかしそんな外洋性のウミアメンボは、海流に逆らう能力は持ちあわせていません。つまり、台風等で海が大荒れになった際に条件さえ整えば海岸に漂着することがあるのです。

今回当ブログ中の人はそんな外洋性のウミアメンボの採集に成功いたしましたので、こちらで紹介させていただきます。
※なおここから採集日当日のダイジェストは当時のテンションでお送りします。多数の同じ文字が羅列しうるさいので嫌な人は見ない方がいいと思います。

去る7/1、風速とかが見られるアプリとにらめっこしながら、同じ県内でかつウミアメンボが漂着しそうな風向きドンピシャの海岸近くに住む友人に「多分○○海岸にウミアメンボ来てると思う!!」と突然連絡。風は翌日7/2にも吹き続けました。そして散歩みたいなテンションでその海岸に向かったその友人はなんと見つけてしまったのです。ウミアメンボを予言的中。ここは我ながらガッツポーズ。
写真が送られてきたので発狂。その日の夕方は落ち着かず部屋の中をぐるぐる回る奇行に走っていました。残念ながら僕の居住地は思い付きで行けるほど海に近くはなかったのでその日は我慢し、翌日朝イチにもう一名の友人とその海岸に向かうことに。打ち上げられたウミアメンボは時間がたつと死んでしまい、海岸にいる生き物に食べられてしまったり、場合によっては砂に埋もれたり飛ばされてしまったりするので、スピード勝負となります。死骸の一つ二つでも見られればいいやと思い寝ようとしますが、寝れません。興奮して寝られません。遠足前の幼稚園児
結局ほとんど寝られずに7/3の朝を迎え、7:30ごろには現地に到着。少し風は弱くはなったものの晩までそれなりの風が吹いていたようで、期待が高まります。

ツイタ。

捜索開始。目の前の流木の下をチェック。

青い点みたいなの。

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああちょっと待って!!!いる!!いるじゃん!!!!!!いる!!いるいるいる!!!

まじか!!しかもめっちゃいるぞ!!!

うおおおおおおおおおおお生きてるうううう

すげええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええこいつ生きてるううううううう
なんか種類違うんかな??ってやつもいるわ!!よくわからんけどもって帰るべ!!

と、二時間以上ひたすらウミアメンボを探し倒し、三桁収集。漂着物の近所は勿論、サーファーの皆さんが作った足跡などといったくぼみにもまとめて落ちていたりしました。なお打ちあがったウミアメンボに関しては全滅してしまう運命なので、採集圧も基本的に気にする必要がございません。ただヒメスナホリムシ?ハマトビムシ?なんかそのあたりの方々(全然詳しくなくてごめんなさい。)たちのエサにはなっていそうなので、死んでいて欠損がヒドイ個体については浜に残してきました。

結果。
結果その②

これでも全ては並んでおりません。約140個体ほど採集いたしました。
分かる方にはわかると思うんですが、この写真を撮った際、あれ、これ三種採れてね?と薄々勘付いておりました。(各種の紹介はあとで)
そしてなんと、一部の個体は生きたまま持ち帰ることができ、白バックまで撮れてしまったのです。それがこちら。

コガタウミアメンボ Halobates sericeus
こちらは♀

おなじくコガタの♂

青イイイイイイイイイぃぃぃぃぃぃいっぃぃっ!!!
我が目の前で、憧れの外洋性ウミアメンボが泳いでいるっ!!!こんなことがあっていいのか!!夢じゃないのか!!夢じゃねえ!!っしゃああああああああああ!!

残念ながら生きている時間は短く、帰宅したのちこの半日後には死んでしまいましたが、一時ではあれ夢のような時間を過ごすことができました。ありがとうコガタ君。(この青色は死んでしまうと灰色に変化してしまします。

さて、ここからは採集された各種の写真です。結論から言いますと、日本から記録がある三種の外洋性ウミアメンボを全て採集できていました。コガタ以外は生きているのこそ撮れませんでしたが、三種を採集できたという事実はホントにラッキーだったと思います。
まずは、三種のサイズ感を見ていきましょう。

左から、ツヤ、センタ、コガタです。

いずれも♀です。ツヤウミアメンボが大きいですね。ツヤは日本産外洋性ウミアメンボでは最大の種です。ツヤの大きさは勿論ですが、センタとコガタの脚の長さの差もわかりますね。中脚の脛節の長さが腿節の二分の一を明らかに超えるのがセンタで、他二種は二分の一をこえません。
各種アップで見ていきましょう。(個人的な同定ポイントを画像に載せています。)

ツヤウミアメンボ Halobates micans

でけえええ!!かっけえええええ!!!
ツヤウミは名の通り前脚の青いツヤがたまりません。全体的にゴツイいイメージです。
今回は極端に数が少なく♀1個体のみ採集できました。

センタウミアメンボ Halobates germanus

脚長いですね~~!!!ご覧の通り、脛節が長いです。
ツヤとコガタの中間ぐらいのサイズで、大変スタイルの良い印象をうけます。
今回は♂1匹♀1匹のみ採集できました。

コガタウミアメンボ Halobates sericeus

サイズ感がかわいい!!センタと比べると脚が短いですね。
今回最も数が多く採集でき、130匹以上がこのコガタでした。(コガタの幼虫と思われる個体含む)
以上紹介でした。

というわけでまさかまさかの3種コンプ。こやつらは存在を知ってからというもの、死ぬまでには採りたいと思っていましたが、20年ちょっと生きただけで達成してしまいました。大丈夫なんでしょうか。ま、まだ採りたい、見たい生き物が沢山いますので死ねませんが。
条件さえよければ日本全国(?)誰でも外洋性ウミアメンボは採集可能です。風や波とにらめっこしながら、ここだ!!という海岸に向かえば、もしかすると…あるかもしれません。当日同行して頂いたお二人、ありがとうございました。


本記事の参考文献:中島淳,林成多,石田和男,北野忠,吉富博之 「ネイチャーガイド 日本の水生昆虫」2020年(文一総合出版)

0 件のコメント:

コメントを投稿